自己紹介

自分の写真

在米ジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスター紙で地域行政や調査報道を担当。アメリカで数少ない日本育ちの報道記者として、他にも現地の司法や経済、スポーツなど幅広く取材。住宅バブル崩壊が南カリフォルニアに与えた影響を調査したシリーズ記事で、カリフォルニア新聞経営者協会の経済報道賞を受賞。

2009年8月22日

「今どきの選手はけしからん」

リトルリーグの世界選手権(Little League World Series)が、ペンシルベニア州ウィリアムスポートで開幕した。ESPNが放映権を持つこの大会は、今や夏の終わりに全米の注目を集める一大イベント。日本からは千葉市(東関東)が代表として出場している。

開幕式では、先月殿堂入りを果たしたジム・ライスが始球式を務め、選手達の前で講演を行った。そこでライスは、今どきのメジャーリーガーを見習ってはならないというアドバイスを子供たちに送り、物議を醸す。

現在のメジャーリーグ選手達は、個人の目標や巨額の契約ばかりに目が向いているというのだ。「君たちはマニー・ラミレスやA-Rod(アレックス・ロドリゲス)や(デレク)ジーターのような選手たちを目にする・・・。私が一緒にプレーしたり、対戦したりした選手達は、君たちがよく話題にするこういう連中とは、比べものにならなかった」。

薬物使用や奇抜な行動などで何かと世間を騒がせることの多いラミレスやロドリゲスと、ヤンキースのリーダーとして名高いジーターを同列に語ることには、批判の声が上がっている。

またライスは、現在殿堂入りしている元選手達は、薬物の力を借りた者に殿堂入りはしてもらいたくないと思っているはずだと言う。子供たちに自分の腕の筋肉を見せながら、「必要なステロイドはこれだけ・・・。神から授かった才能だよ」とまで言い切った。そして、記者から殿堂入りにふさわしい選手はと質問を受けると、イチローやケン・グリフィー・ジュニアの名前を挙げた。

大会に参加する11歳から13歳の子供たちが、1970年代から1980年代にかけて活躍したライスを知るはずもなく、AP通信は、居眠りやあくびをする子供もいたと報じている

「昔はダボダボのユニフォームなんてなかった。ドレッドヘアーもね。とてもクリーンなゲームだったんだ。今のメジャーリーグは、子供たちに悪影響を与えている」と話すライス。日本の高野連のようなことを言うアメリカ人がいることに驚くと同時に、「昔はよかった」は世界共通の口癖なんだと改めて認識した。

このエントリーをはてなブックマークに追加

2009年8月18日

セイバーメトリクス、新しい野球の見方

現在、米国では、野球のデータを統計学を用いて客観的に分析し、選手の評価や戦略を考えるセイバーメトリクスが認知されるようになってきた。(「スポーツ界にあふれる意味のない数字」

野球をやったことのない統計オタクの言うことなど聞くものかとつっぱねてきた野球人も多かったが、新しいデータ分析を取り入れたチームの成功を見て、ほとんどのメジャーリーグチームが専門家をスタッフに加えるようになった。

マイケル・ルイス著のベストセラー「マネー・ボール」では、従来の野球観に縛られる他チームの経営につけ込み、セイバーメトリクスに基づいて、過小評価されている選手をかき集めたアスレチックスの運営を描いている。スポーツ書としてだけでなく、ビジネス書としても読みごたえがある。

セイバーメトリクスに関しての詳しい説明は、専門のサイトに任せるとして、米国では一般人が独自の分析ができるほど、メジャーリーグに関してのデータが豊富に出回っている。そしてそのほとんどが、今やインターネットで瞬時に手に入る。

有名なのはBaseball-Reference.com。説明するのが面倒なくらい、とにかくメジャーリーグに関するあらゆる情報が詰まっている。プロチームも利用するというこのサイトは、過去やマイナーリーグの記録も網羅している。ためしに「Ichiro Suzuki」と入力して、検索してみてほしい。

(Baseball-Reference.comより)

そのBaseball-Reference.comにひけをとらないのがFanGraphs。ここはセイバーメトリクスに特化しており、Baseball-Referenceで手に入らない独自のデータも手に入る。面白いのが、守備を数値化したUZR。ちゃんと守備範囲と肩の強さも考慮されている。これまで守備がうまいとされてきた選手が、果たして客観的にそうなのか確認できる。英語が得意ならば、専門家による分析も読むことができる。

(FanGraphsより)

圧巻なのはBrooksBaseball.net。なんとメジャーリーグの全ての試合の、全ての投球を分析している。ピッチャーがどの位置で球をリリースし、どこに投げたか、変化球がどれだけ変化したかということが分かってしまう。専門家じゃなければ理解できないようなグラフも表示される。

(BrooksBaseball.netより)

現在、サンフランシスコ・ジャイアンツは、フィールド上のあらゆる動きをデータ化できるビデオシステムを試験導入しているという。これによって、選手の評価はますますコンピュータにゆだねることになりそうだ。

また米国では、こうした専門データサイトに行かずとも、メジャーリーグの公式サイト、ESPNやYahoo!のような大手メディアサイトに行けば、一般のファンが必要とする情報は簡単に入手できる。それに比べて、日本のプロ野球はデータ面の充実度があまりに乏しい。数字が全てと言うわけではないが、ファンにまた違った野球の楽しみ方を提供するというのも、サービスの一つではないか。

このエントリーをはてなブックマークに追加

あの人は今:トミー・クルーズ

トミー・クルーズという名前を覚えているだろうか。1981年、「サモアの怪人」トニー・ソレイタ(故人)や江夏豊とともに、日本ハムを優勝に導いた選手である。

日本のプロ野球で6年間を過ごし、通算打率.310。1984年には最多二塁打を記録し、ベストナインにも選ばれた。

そのクルーズが、今年、ハイデザート・マーベリックス(マリナーズ傘下1A)の打撃コーチを務めている。シーズン初盤、クラブハウスで取材をしていたら、お辞儀をしてくる中年男性がいて、からかわれているのかと思ったらクルーズだった。

その後、彼の日本での成績を探してきてくれないかと頼まれ、日本版Wikipedia記事の英訳と一緒に渡した。せっかくなので、連載中のコラムにも登場してもらった。

メジャーリーグでは7試合出場にとどまり、米国での最終年にはミネソタ・ツインズのキャンプにも参加していたが、メジャー昇格の望みが断たれたため、日本に活躍の場所を移す決断を下した。

日本での一番の思い出は、1984年に阪急のブーマーと首位打者争いをしたことだと言う。「(シーズン終盤)僕が試合に出ているのに、彼はベンチに座って試合に出場しなかった。彼は僕に失敗してほしかったんだ。僕は彼に電話して、『なにやってるんだ。首位打者争いをしているのにずるいじゃないか』と言ってやったよ」。クルーズは打率.348で2位に終わり、ブーマーは外国人選手初となる三冠王を獲得した。

クルーズは成績だけでなく、その闘争心あふれるプレーでもファンを魅了した。ある試合では、顔面にデッドボールをくらい、救急車で病院に搬送されたにも関わらず、次の日に猛打賞を記録。Wikipediaには7針縫ったと記載されているが、クルーズ本人は29針だと話す。「唇が真っ二つに裂けたんだ。でも僕はプレーするのが好きなんだ。ベンチに座るなんてまっぴら」と笑いながら言う。

1985年シーズンにも打率.321を残したが、膝の故障がたたり、同年オフにチームを退団した。Wikipediaには契約でもめて退団とあるが、クルーズいわく、チームが契約延長をのぞまなかっただけで、遺恨は一切ないという。「日本で過ごした時間の全てが好きだった。私の妻も同じだよ。日本人は僕らにとてもよくしてくれた。とても教養のある人たちばかりだった」。

日ハム退団を機に選手を引退したクルーズは、祖国プエルトリコに戻り、少年野球のコーチを務めた。1991年にはマリナーズにコーチとして雇われ、現在に至っている。

今年のマーベリックスは、好調な打撃に支えられ、カリフォルニアリーグ南地区の前半戦優勝を果たし、後半も優勝争いに加わっている。連続安打記録で全米を湧かせたジェイミー・マクオーウェン外野手は、クルーズのアドバイスでスタンスを広げたことが成功につながったと話す。また、クルーズは素振りやトスバッティングなど、日本で学んだ練習方法を指導に取り入れている。

58歳になった今でも、炎天下のハイデザートで一時間近く打撃投手を務めるクルーズ。打者がホームランを打つたびに、大げさなジェスチャーと大声で褒めたたえ、空振りをした時は、他の選手と一緒にゲハゲハ笑う。ボクは彼の現役時代を見たことはないが、きっとガッツあふれる姿は今と変わらなかったことだろう。

このエントリーをはてなブックマークに追加

2009年8月14日

スポーツ界にあふれる無意味な数字

データはスポーツを観る者にとって欠かせない要素である。

選手の能力を測るだけでなく、一つの競技において、過去と現在を結ぶ唯一の手段であるともいえる。2004年に262安打を達成したイチローとジョージ・シスラーの記録がよい例である。

しかし、残念なことに、スポーツ界に広く普及しているデータには、選手の実力を正確に反映していないものが数多くある。むしろチームの経営や采配に悪影響を及ぼしている数字もあるくらいだ。

例えば野球の打点。三冠王のカテゴリーともなっているこの指標は、打者の能力以前に、ランナーがいるかいないかが大きく影響する。出塁率の高い打者や俊足ランナーを抱えるチームのクリーンナップが有利なのは明らか。

チー ムメイトの能力に左右されるという点では、得点(打者が本塁に帰還する回数)や投手の勝敗成績も同じだ。最優秀投手を選ぶ際、何勝を挙げたかということがよく引き合いに出される。しかし、10点許そうが、ヒットを20本与えようが、自チームが勝てば勝利投手というのではあまりに馬鹿げている。

そ して最悪なのはセーブ。チームが3点勝っている九回の場面にクローザーが登場し、2点を許してもセーブはつく。一回に2点を許すというのはピッチャーとし ては悪い内容である。打点や得点は、少なくともチームに貢献した結果だが、セーブはチームに悪影響を与えた選手がプラスの成績を得るという、とんでもないデータ なのだ。

セーブやクローザーという考えが普及した現在、ベンチの采配がそれらに支配されることすらある。最高のリリーフ投手を、九回表、3点差で勝っている場面では使うのに、セーブがつかないから七回に同点満塁の場面では使わないという のは、あまりにもったいない。勝敗の分け目となる最も重要な場面を抑えるというのが、本来の救援というものではないか。

現在守備力の指標として用いられているエラーや守備率は、守備範囲や肩の強さを一切考慮していないので、実用性はゼロに近い。打率、安打数、防御率といった数値でさえ、他のデータと合わせて考慮しないと、判断を誤ることもあるので注意が必要だ。

このエントリーをはてなブックマークに追加

2009年8月7日

チームメイトを守れ

マーベリックスの試合で、ネイト・アドコック投手が打者の頭にデッドボールをぶつけて、即退場になるという場面があった。アドコックは、ダグアウトに戻るなりグラブを壁に投げつけるなど大暴れ。その試合では初の危険球で、明らかに故意だとは思えなかったため、相手監督も不可解な判定だと試合後に話した。

その少し後、相手チームのピッチャーが死球を与え、彼も即退場となった。バッターがピッチャーマウンドに向かう動作を見せたため、両ベンチがグラウンドに飛び出し、あわや乱闘という騒ぎになった。結果、死球の入り乱れる後味の悪い試合となった。

試合後のロッカールームでアドコックにインタビューしたら、こんな回答が帰ってきた。

「野球じゃチームメイトを守らなきゃいけないんだ。昨日の試合で、失点やヒットを許したピッチャーに(チームメイトの)ボニーヤがぶつけられて、今日はドミンゲスがダブルプレーの際にタックルを受けた。・・・初球に彼がバントのしぐさを見せて、三塁ランナーが飛び出すのが見えた。だから内角高めに球を投げたんだ。まあそれも試合の一部だよ。」

前日からの因縁があったことをほのめかすようなコメントだった。これを記事に載せたところ、それを読んだ相手チーム監督は怒り心頭。更には、アドコックと相手投手に150ドル、両監督に25ドルの罰金が課せられた。面白いことに、アドコックは罰金が生じた数日後に、マリナーズからパイレーツにトレードされた。

日本では死球を与えた投手が帽子を取って謝罪の意思を示すこともあるが、米国ではむしろピッチャーが「何だ、やる気か」と言わんばかりに、打者に向かって歩いていく。チームメイトが危険にさらされたら、報復するのが当たり前なのである。日本人がチームの輪を重視するというが、実は米国野球でもチームとしての意識が非常に強いのだと、番記者をしてつくづく感じるようになった。

自分の書いた記事で選手や監督が罰せられることもあるのだから、記者の責任というのは思った以上に重い。

このエントリーをはてなブックマークに追加