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在米ジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスター紙で地域行政や調査報道を担当。アメリカで数少ない日本育ちの報道記者として、他にも現地の司法や経済、スポーツなど幅広く取材。住宅バブル崩壊が南カリフォルニアに与えた影響を調査したシリーズ記事で、カリフォルニア新聞経営者協会の経済報道賞を受賞。

2009年11月9日

米国スポーツ業界で働くには

シアトル・マリナーズ傘下1A、ハイデザート・マーベリックスのゼネラルマネージャーを務めるティム・アルティアに、その仕事内容についてインタビューをした。

ティムは2005年のウィンターミーティングでマーベリックスに雇われ、昨年のオフシーズンに27歳でゼネラルマネージャーに昇進。メジャーリーグとは違って、マイナーリーグのゼネラルマネージャーは、文字通りゼネラリストととして、あらゆる業務をこなさなくてはならない。記者席からスタジアムの様子を眺めていると、座席磨きから苦情の対処まで忙しく動き回るティムの姿が目に入ってくる。

日本でもスポーツ経営が注目されるようになり、米国でスポーツを取材をしていると、たまに日本人の職員を見かけることがある。アメリカの大学でスポーツ経営学を学ぶ日本人学生も増えてきた。ティムは名門コーネル大学で生物科学を専攻していた異色の経歴の持ち主。彼がいかにして今の職にたどりついたのか、従業員を雇うときにどんなことを重視するのかなどを聞いてみた。


ゼネラルマネージャーとして、普段どんな業務を行っていますか?

ほとんど全てのことです。おかげで毎日が新鮮で楽しいです。オフシーズンには次の年に何をするのか計画します。試合中のプロモーションや、相手チームが泊まるホテルの手配、スポンサー探し、それからチケット販売なんかです。それからフルタイムの職員を雇うため、ウィンターミーティングに行ったり、新しい職員の指導にあたったりします。予算の作成といった財務も行います。

メジャーリーグとマイナーリーグのゼネラルマネージャーはどのように違いますか?

大きな違いがあります。メジャーリーグのゼネラルマネージャーはチーム編成や育成など、主に野球の運営に関わります。それが彼らの一番大切な仕事です。メジャーには、ビジネス業務の指揮を任されている球団社長がいて、ゼネラルマネージャーと一緒に仕事をしますが、異なった任務を受け持ちます。

一方、マイナーリーグのゼネラルマネージャーは、主にビジネスを担当し、チーム編成には携わりません。それは提携しているメジャーリーグのチームを通じて行われます。メジャーリーグ球団が選手やコーチを送り込んできて、私はそれに口を出すことはできません。

どのような経緯でゼネラルマネージャーに就任したのですか?

ここへは新人の会計担当としてやってきて、毎年少しずつ昇進しました。二年目はセールス担当です。三年目は主にプロモーションとスポンサーを担当し、シーズン後に当時GMだったデレル・イーバートが(親会社の)ブレットスポーツ社が所有する他チームへと移ったので、私に声がかかったのです。

ゼネラルマネージャーとしての一年目はいかがでしたか?

昨年のシーズン後に就任したのですが、これまで気づかなかったことや学ぶことがたくさんありました。オフシーズンは不況も影響して大変でした。チケット購入を先延ばしにするファンも多く、我々も出費には気を遣いました。秋から冬にかけてはフルタイムの職員も少なく、私と二人のアシスタント・ゼネラルマネージャーだけ。10月から12月はとにかくセールスに力を入れ、毎日地元企業へ出かけていきました。一月に他のスタッフが戻ってきた時はほっとしましたね。

シーズン開幕が近づいてきて、選手たちが街にやってくるとやはりわくわくします。特に今年はチームが強いと分かっていたので。前半戦で地区優勝したときはファンも沸きました。(マーベリックスは後半戦も優勝したが、リーグ優勝決定戦で惜しくも敗北。)

不況はスポンサー探しにも影響しましたか?

平年よりも大変でした。毎年、ほぼ自動的に契約を更新してくれるような会社でも、今年は話が別。自動車ディーラー、不動産、銀行は長年のお得意先なのですが、それらの産業は不況のあおりを最も受けたので、我々も大変でした。観客動員はよかったのですが、スポンサー収入は明らかに減りました。

ゼネラルマネージャーをしていてよかったと感じるのはどんな時ですか?

最も満足感を得られるのは、ファンがスタジアムを去る時です。私は毎日、試合後にゲートに立って、スケジュールを配ったり、ファンと話をしたりします。子供が「楽しかったね」と言って、親に「また来ますね」なんて言われるのが、一番この仕事をしていてよかったと感じる時です。家族が楽しい時間を過ごせるようにするのが、私たちの役目ですから。

コーネル大学で生物科学を専攻した後、どうして野球の世界に入ろうと思ったのですか?

大学時代、専攻していた分野での就職を考えてみたのですが、どうもしっくりきませんでした。海洋生物学を集中的に勉強していて、スキューバダイビングの資格を取ったり、夏には海洋研究所で授業を取ったりもしていました。それはそれでよかった。素早く文章を読むことに慣れ、分析力が身につきましたし、エクセルのスプレッドシートも使えるようになりました。

ただ生物科学で学士をとっても、シーワールドに就職するか、大学院に進むか、その後の選択肢はあまり多くありません。それでニューヨークにある保険コンサルティング会社にアナリストとして就職し、財務諸表や予算についてたくさんのことを学びました。二年間そこに勤める中で、お金を貯めながら、将来何をするのかを考えました。

でもスポーツにはずっと興味があったので、野球のウィンターミーティングに行き、そこでマーベリックスの仕事を見つけたのです。最初はしばらくやってみて、自分に合うかを見極めようという気持ちでしたが、気に入ったので今でも続けています。

スポーツ業界で働きたいと思っている人に何かアドバイスはありますか?

必ずしもスポーツマーケティングを専攻する必要はないと伝えます。ただ、プラス材料にはなります。私も書類専攻でそれを見ますから。私が学校で学ばなかったことを知っているかもしれませんし(笑)。

どこかでインターンの経験を積むことがとても大切です。住宅探しをしなくてすむという点で、地元で見つけるのがベストです。野球はチーム数が多いので、バスケットボールなんかに比べると仕事を見つけやすいです。インターンシップでは、その人が長期で仕事に関わる気持ちがあるのかを判断することができます。給料がタダ同然な上、お金をもらっている職員たちがやらないような雑務をこなさなくてはならないので、熱意が表れてきます。私たちのスタッフも、インターンシップから始めた者ばかりです。マーベリックスでというわけではなく、どこか別のチームでですが。

職員たちは全米から集まってきています。私もニューヨーク出身です。インターンシップを終えれば、その後の仕事探しも楽になります。一生懸命働けば、就職の際に推薦してもらいやすくもなります。私はレファレンス(応募者の人柄や能力について証言できる人)の言うことを重視します。履歴書だけじゃ分からないことが多いですから。

補足:米国では就職の際にレファレンスを記載することを求められる場合が多い。それは上司であったり、大学時代の教授であったりする。企業側はそこに連絡をとって、応募者についての第三者からの情報を得るのだ。

この業界で成功するのに必要な能力はなんですか?

柔軟性は必要です。変化の激しい業界ですから。たくさんのスタッフを指導・監督しなくてはならないので、忍耐力や対人スキルも欠かせません。マーベリックスにはパートタイムのスタッフが80人くらいいます。野次を飛ばす観客や、苦情を言ってくるお客さんもいますので、その対応をしなくてはならない。それに夜遅くまで試合が長引くことがあるので、短い睡眠時間でも平気な体力。野球は毎日試合があるので、やることは山ほどあります。

マーベリックスの職員はどのように雇うのですか?

フルタイムの職員を雇う時は、いくつかの就職フェアに出向きます。一つはブレットスポーツ社があるワシントン州スポケーン。もう一つは12月のウィンターミーティングです。地元で興味のある人とも面接をすることがありますが、ほとんどはウィンターミーティングですね。ウィンターミーティングに参加するにはお金がかかるので、そこに来ることで応募者はやる気を示すことができます。

野球シーズンは長いので、献身的に働ける人を雇います。向上心を持っていることも大切です。この業界でキャリアアップを目指している人ほど、学ぼうとする意欲が強いので、優れたスタッフになります。

パートタイムスタッフを雇う時は、自分たちでジョブフェアを開きます。(マーベリックスが位置する)サンバーナディーノ郡も何百という応募者を予備専攻する手伝いをしてくれます。その後、3月に二週間ほどかけて我々が2対1で面接を行い、試合のパートスタッフを雇います。空きがあればシーズン中に雇うこともあります。

マーベリックスのフルタイム職員になるための競争倍率はどれくらいですか?

フルタイム職員になるのはとても難しいです。一年に一人か二人の空きしかでないからです。そうした空きはほとんどが、ブレットスポーツ社の中でカリフォルニアに転勤したい社員によって埋められます。あとは推薦か、ウィンターミーティングですね。ウィンターミーティングには優秀な人材がたくさん来ますから。


インタビューを終えて

ボク自身、大学院でスポーツ経営を専攻していたので身にしみて分かっていることだが、スポーツ業界はタダ同然でも働こうという意欲のある人であふれている。その点では俳優やミュージシャンに近いものがある。その中で英語にハンデのある日本人が抜け出そうとするのであれば、ティムの言うような献身的な姿勢と向上心に加え、他の応募者にない強みを発揮しなくてはならない。ティムに質問したところ、英語ができないというのはやはり大きな障壁になるという。

それでも球場で笑顔を絶やさないティムの姿を見ていると、それだけの価値がある仕事なのだと感じさせてくれる。

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